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バッハ 無伴奏バイオリンソナタ第1番 by 城戸かれん (2018/7/12)

第一曲 アダージョ
技術的には必ずしも完璧でないところもあるのだが、聴こえて来るのは間違いなくバッハの音である。
バッハの魂に触れている、と感じさせる演奏のみから伝わってくる波動が、心の深いところに吸い込まれて行くのが分かる。
木造のホールの響きを生かすことで、空間全体をバッハで満たすことに成功している。
この曲の持つ劇的な性格を、自分なりに消化して、音として表現している。
これが聴けただけで、ここまで足を運んだ価値があった。

第二曲 フーガ
このフーガがあるためか、第一ソナタの実演を聴く機会は少ない。
そして、バッハのトレードマークのようなフーガでありながら、本来旋律楽器であるバイオリン単体でポリフォニー弾くということに何か本質的な無理があるのか、楽譜は音になっているものの、バッハを感じさせる演奏には、まず出会えない。
そんな曲ではあるが、この演奏は、おそらく、これまで実演で聴いたものの中では、最高のものかも知れない。
演奏至難な音符が続く中でも、バスラインが明確に聴き取れるのは、見事な解釈力と演奏技術があるからだろう。
唯一、四重音になる部分で、バスライン、すなわちG線の音が聴き取れなかったが、実演なのであるから、そんなことはどうでも良いように思われた。

第三曲 シシリアーノ
これもまた、演奏者が、音符のどの部分をバスラインと理解したかが明確に聴き取れ、好感が持てる。
ただ、これだけの解釈力と技術を持った演奏者にしては、どこか走っている感覚があり、この曲の持つしみじみとした深さが感じられない。
バッハの無伴奏ソナタについては、どれについても言えることだが、長大なフーガを弾いた後で、全く違う曲想の音楽を演奏することが、プロの技術の持ち主であっても、如何に難しいか、を改めて感じる。
しかし、終盤の盛り上がりを見せる場面で、ハッとしたようにテンポが落ちるところは、流石である。

第四曲 プレスト
自分の持てる技術の中の最高速に挑むような演奏である。
それでいながら、重要な音符とそうでないものとを弾き分ける部分と、全ての音を明確に示さなければならない部分とが明確に意識されている。
この曲は前半と後半とに分かれるが、前半が繰り返し無く後半に進んだことには、あれ、とは思いながらも好感を持ったが、後半については、できれば繰り返しを聴きたかった、と感じた。
その時は感じられなかったが、いま思い返してみると、テンポはまるで違うが、バッハは、第一曲に秘めた劇性を、この曲で、別の形で表現したことは、充分に考えられる。
そして、演奏のところどころからは、ほとんどが単音の連続で演奏される曲想の中で、どんな風に、バッハがポリフォニーの意識を散りばめたのか、についての演奏者の理解が感じられるところが随所にあった。
こういう演奏のできる演奏家であれば、次は、どんなプレストを演奏するか、ぜひ聴いてみたい。

東京藝術大学 修士リサイタル
2018年7月12日(木)18時 東京藝術大学第六ホール
朴 卿燻
 バッハ       無伴奏ヴァイオリンソナタ第2番 イ短調 BWV1003
 モーツァルト    ヴァイオリンソナタ第26番 変ホ長調   KV302
 ヴィエニャフスキ  華麗なるポロネーズ第1番          op4

城戸かれん
 バッハ      無伴奏ヴァイオリンソナタ第1番 ト短調 BWV1001
 ベートーヴェン ヴァイオリンソナタ第6番イ長調        op30-1

上薗綾奈
 ショーソン    詩曲 op25
 フォーレ     ヴァイオリンソナタ第1番 イ長調      op13

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