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ベートーベン バイオリン協奏曲 by松本紘佳 (2011/9/29)

序曲が終わり、コンチェルトのセッティングのために第一バイオリン奏者たちが一旦舞台から退き、セッティング終了と共に再び入場して来る。

パラパラと拍手が湧き起こる。

先頭を歩いていた女性奏者が、くすっと笑う。

客席もちょっと湧く。

舞台に残っていたオーケストラメンバーたちも囃したてる。

そんなところに、オーケストラの雰囲気が窺える。

ソリストと指揮者が登場し、序奏が始まる。

冒頭のティンパニの導入に続いて、木管楽器の演奏が始まると、舞台から、今日のソリストを何としても盛り立てようという団員たちの気持ちが客席に流れ出してくる。

どんなリハーサルだったのかが、伝わってくる。

序奏の演奏は、念入りに練習を重ねたことがはっきり分かる完成度の高いもの。

ソリストを見ると、序奏の演奏を、あたかも自分の演奏であるかのように感じていることが判る。

ソロが始まる。

冒頭から、聴衆に演奏家の想いが伝わる音色が出ている。

ベートーベンのバイオリン協奏曲は、作曲意図にバイオリンの魅力を聴かせようという要素があまり感じられない、演奏家に、バイオリン弾きとしてではなく音楽家としての資質を要求する、バイオリン協奏曲としては、やや異質な存在である。

それでいて、この曲を音楽として聴かせようとすれば、まず音色とビブラートで聴き手を魅了できなければ音楽にならない、演奏家の基礎力が露わになる音楽でもある。

その視点から見た場合、ソリストは、恵まれた音色とビブラートを持っている。

音色は、楽器の音色が鳴っているのではなく、演奏家天性の音色になっている。

技巧を聴かせるヴィルトオーゾをめざすより、ソナタのような精神性を表現する分野に傾注した方が大成するタイプであるように感じる。

第二楽章に入っても、オーケストラの演奏が美しい。

この楽章は、ベートーベンのほのぼのとした優しさが湧き立つような音楽であるが、実演でそういうベートーベンに出会えるチャンスは、そうはない。

オーケストラが、ソリストのインスピレーションを掻き立てる演奏を送り、それに応えるソリストの演奏によって、オーケストラがインスパイアされる、という循環が起きている。

第三楽章のタイミングを作るのはソリストである。

この入りが絶妙だった。

途中、ちょっとソリストの演奏が荒れ、オーケストラと半拍ずれかける。
が、指揮者はそんなことは気づいていないような素振りで、わずか数拍でソリストに合わせてしまう。

これこそプロの技であろう。

いよいよ終盤のカデンツァである。

第一楽章に続いて、この楽章のカデンツァも、ベートーベンのカデンツァとしては、最も難度の高いものが選択されているのではあるまいか、と思えるほど、難技巧が連続する。

本人はともかく、指導者が、よくこんな選択をさせたなあ、と演奏を聴いている時は思ったが、後から考えると、これだけ技術のあるソリストであれば、カデンツァは技巧の見せ場にしてしまった方が、むしろリラックスできるのかも知れない。

それほど、ベートーベンの音楽を演奏することは、演奏家にとって容易ならざることなのだ。

アンコールはバッハの無伴奏。

1番ソナタの冒頭曲である。

パガニーニのカプリースを弾くより、こちらの方が、ずっと似合う演奏家である。

〈フレッシュ名曲コンサート〉
2011年9月29日(木)19時 武蔵野市民文化会館
ジョナサン・シフマン指揮 新日本フィルハーモニー交響楽団
ヴァイオリン 松本紘佳
ベートーベン エグモント序曲
         ヴァイオリン協奏曲
          交響曲第7番

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コメント

素晴らしい演奏鑑賞メモありがとうございます。
当日の演奏を、そして松本紘佳さんというソリストがどのような演奏家であるかを、情景が目に浮かぶような文章で、かつ的確にレポートしていただけていると思いました。
才能溢れるソリストを的確に評価できる聞き手の存在が、さらに演奏家を大きく育てていくことと思います。今後もこうしたレポートを宜しくお願いいたします。

初めに発売された29日のベートーヴェンヴァイオリン協奏曲公演は15~6歳の少女がどのように演奏するのか、と半ば興味を持って購入。次いで発売された23日のEliane Reyesとのフランクソナタは期待して購入。23日のフランクとアンコールのサン=サーンスの素晴らしさには、目も耳も心も奪われ、ホールは大興奮。ただただ素晴らしい。言葉を失う、とはこのことか。瑞々しく美しい音色が喜びも悲しみも情熱も全て表現し、満席の聴衆を魅了。
29日、さらに感嘆したのはフランクと全く違うアプローチでベートーヴェンを演奏したこと。そしてそれが、純度の高さと美しさとなっていたこと。
貴レポートにもあるように、団員のソリストへの思いが伝わると同時に、ソリストが序奏を自分の演奏と感じていることも素晴らしかった。
また大ホールではヴァイオリンの音は、どうしても小さく聴こえて欲求不満を持つことが多いのに、松本さんの音はpでもfでも透明感をたたえて通ってくる。
小さな身体(23日のサイン会で間近に拝見)から、大きなパワーと風格さえも備えた、このモンスターのような少女の素晴らしい未来から目を離せません。

Brava!!!!!!!!!!!
心に染みいる音色と目も覚めるような技術。
堂々とした舞台姿。
感動しました。
11月のチャイコフスキー協奏曲も
あわてて購入。

初めて松本紘佳さんのリサイタルを2014年11月6日フィリアホールで聴いたばかりの者です。
もう驚くしかないヴァイオリニストでした。
そして、3年前のRoom♭さんの眼力も凄いですね。
ベートーヴェン、ブラームス、イザイのソナタ3曲が前半だったのですが、
御年19歳の少女が演奏しているとは到底思えない素晴らしさでした。
ベートーヴェンでは音楽の豊穣が存在し、ブラームスでは、心のひだを描く
かのように一音一音が表現され、
イザイでは前2曲とがらりと音色を変え圧巻でした。

後半は、いわゆるヴィルトゥオーゾ・ピースが並び、
アンコール4曲も含め、実に美しく多彩な音色を楽器から引き出し、まるで魔法のよう。
この日満席だったホールの聴衆は聴き惚れていました。
まだあの美しい音が耳に残っています。

ウィーンに留学中ということは、あまり日本で聴けない?
協奏曲も聴きたいです。

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